今回は少し前に話題になった、日経BP社から翻訳・出版されております「FACTFULNESS」(ハンスロスリング他)について解説したいと思います。
この書籍を取り上げた理由は、私自身を含め多くの人の、世界の実状を見る目が歪んでいると感じたからです。
まず質問です。あなたが「世界の人口」や「世界の貧困率」、「世界各国の一人当たりのGDP」の推移を、最後に見たのはいつでしょうか?
もしかしたら中高生の頃の社会の授業なのではないでしょうか。
その場合、20代なら10年前、30代なら20年前、とはるか過去に習った印象をベースにして今を見ています。
また記憶しているデータが新しい場合であっても、
私たちが見ている世界は、様々な錯覚によって歪んで見えています。
この錯覚は非常に厄介で、自分でははまっていることに気づくことは難しいものです。
この本では、私たちの考えを誤った方向に導いてしまう10個の代表的な錯覚を紹介し、事実に基づいて世の中を見ることの重要性を訴えます。
著者のロスリングさんはTEDトークでも有名な方であり、「FACTFULNESS」という本はロスリングさんが病気になり、残り短い命を使って書かれた本です。
文字通り、命をかけて作られた本であり、強い気持ちが込められた本です。
この記事では、私の独断と偏見に基づいて、日本人が特に陥りがちな3つの錯覚についてピックアップして説明します。
そのあとに、事実や統計に基づいて考えることの重要性について述べたいと思います。
ではいきましょう。
目次
錯覚を引き起こす人間の本能
分断本能 〜世界はあっち側とこっち側?〜
結論から言うと、世界は途上国と先進国の2つにきれいに分かれているわけではありません。
世界の大半は少しずつですが良い暮らしをし始めています。
にも関わらず、西洋や日本の人たちはあっち(途上国)とこっち(先進国)という考えを根深く持っています。
ドキュメンタリーなどではドラマチックに見せるために、途上国と先進国の対立構造を強調したり、格差が拡大しているように話します。
しかし、それは実際のデータから解釈されるものとは異なります。
報道では話をわかりやすくするために極端な例が使われます。
私たちが実情を掴むためには、その国の大半の人がどのような生活をしているかを意識するべきです。
もっと一般的な表現を使うと、大半の人が所属している部分に意識を向けてください。※ 実際に極端な例で取り上げられる人たちがいるのも事実です。
そこは決して無視していいものではありません。
ここで述べたいFACTFULNESSをまとめると、狭い視野ではなく全体像を掴んでから個別の事象を考えましょうということです。
恐怖本能 〜消えた4000万機の飛行機〜
結論から言うと、恐怖と危険は異なります。
人類が恐怖を感じる機能は狩猟採集生活を送っている頃に形作られたものであり、現代の生活に対応できていません。例をあげるために質問をします。
ぜひ考えてみてください。
Q. 自然災害で毎年なくなる人の数は、過去100年間でどう変化したでしょう?
A. 2倍になった
引用元:ハンス・ロスリング,オーラ・ロスリング,アンナ・ロスリング・ロンランド. FACTFULNESS(ファクトフルネス)
B. あまり変わっていない
C. 半分になった
すぐに解答で申し訳ありませんが答えは C です、同じ期間に人口が50億人増えたにもかかわらず、です。
理由は極度の貧困からほとんどの人が脱出したからです。
もう一つ例をあげると、2016年に死亡事故を起こした飛行機は10機であり、これらの事故は大々的に世界中で報道されました。
一方で、何事もなく無事に運行した飛行機は4000万機にのぼりました。
こんなことはニュースにならないので、報道機関は当然により不幸な方を取り上げ、市民の不安を駆り立てることで注目を集めようとします。
不幸なニュースをたくさん目にするのは構造上仕方ないことですが、世界が不幸で溢れているという勘違いはしないでください。
ここで述べたいFACTFULNESSをまとめると、なにがどのくらい危険なのかをちゃんと見積もるようにしてください。
ニュースで聞いた直感的な恐怖だけで判断していると、本当に危険なものを避けれないかもしれません。根拠を持って怖がりましょう。
犯人捜し本能 〜悪いのはあいつ?〜
結論から言うと、犯人探しに意味はありません。1つの要因のみで出来事を完璧に説明できる方が珍しいです。
例をあげると、
「地球温暖化を引き起こしているのは、インドや中国やその他の所得レベルが上がっている国だ。その国の人たちはがまんして貧しい暮らしを続けるべきだ」
という考えが西洋や日本では一般的なものとなってしまっています。
まるで西洋や日本の人がリモコン一つで人の生活を操作できるような物言いで、しかも事実からも乖離しています。
事実として世界を金持ち順に並べると、いちばん上の10億人が全体の化石燃料年間使用量の半分、その次の10億人が残りの半分、さらに次の10億人が残りの半分を燃やし、いちばん下の10億人の使用量は1%もありません。
つまり、誰かの責任を追求するのではなく、多くの人の生活水準があがったときにどうやったら持続可能かを考えなければならないのです。
近年では、SDGs (Sustainable Development Goals) と言って、持続可能な社会を目指すことも重要視されるようになっています。
ここで述べたいFACTFULNESSをまとめると、何か問題が起きたときは犯人よりもシステムに注目しよう、ということです。
解決のヒントは問題を引き起こしているシステムを考えることにあります。
最後に
本当は全ての本能について語りたい気持ちでしたが記事の長さの関係上、ここで切り上げます。最後にアクションプランに落とし込んで、記事を終えたいと思います。
アクションプラン1:自分の直感に錯覚の影響が入っていることを意識する
10個もある本能によって、見えている景色は大きく歪んでいます。
いちばん怖いところは歪んでいることに気がつけないことです。
意識的に事実を集めて、自分の直感とのズレを確認してください(一般的な仕事でも非常に重要なことだと思います)。
例えば、リスクがあると感じたときは、どの程度の確率でどの程度の損害が出るのかを、最悪のケースも含めて試算してみると良いと思います。
ぼんやりとした恐怖から、具体的な数字になることによって、私たちが冷静に判断できる可能性が高まります。
少し厳しい言い方になってしまいますが、事実に基づかない考えはただの「思い込み」です。
アクションプラン2:常識というものはアップデートし続けるものだと受け入れる
世界は刻一刻と変化しているもので、5年も10年もたてば世界情勢は大きく変わります。
そのため、あなたが持つ常識をソフトウェアのように継続してアップデートするように意識していきましょう。
いかがだったでしょうか。面白かった人はぜひ原著「FACTFULNESS」を読んでみてください。
明日からは事実に基づいて生きていきましょう。